購入型クラウドファンディング支援のリターン、確定申告書のどこに書く?所得別の記入方法を解説
クラウドファンディングを通じてプロジェクトを支援し、リターンを受け取られた方の中には、「これって確定申告が必要なの?」「必要なら、申告書のどこにどう書けばいいの?」と疑問に思われている方もいらっしゃるかと思います。特に、購入型クラウドファンディングのリターンは、その内容によって税務上の扱いが異なり、戸惑うことも少なくありません。
このページでは、購入型クラウドファンディング支援でリターンを受け取った場合に焦点を当て、それが税務上どのように扱われるのか、そして確定申告が必要な場合に、具体的に申告書のどこに、どのように記入すれば良いのかを、一時所得と雑所得に分けて分かりやすく解説します。確定申告が初めての方や不慣れな方でもご理解いただけるよう、具体的な手順を中心に進めてまいります。
購入型クラウドファンディングのリターンが「所得」になるケース、ならないケース
まず、購入型クラウドファンディングで受け取るリターン全てに税金がかかるわけではありません。リターンの内容によっては、そもそも税務上の「所得」として扱われない場合があります。
購入型クラウドファンディングにおけるリターンは、大きく分けて以下のいずれかに該当することが多いです。
- 単なる「対価」としての物品やサービス: プロジェクトの成果物や、支援金額に応じた商品・サービスを受け取る場合です。これは、ECサイトで商品を購入するのと同様に、支援金額はその物品やサービスの購入代金とみなされます。この場合、受け取った物品やサービスは税務上の所得にはなりません。
- 支援への「お礼」としての物品やサービス(経済的な価値のあるもの): 支援金額とは別に、感謝の意として提供される物品やサービスで、一般的に市場で売買されるような経済的な価値を持つものです。例えば、限定グッズ、イベント参加権、割引券などがこれにあたります。これが、税務上の「所得」として扱われる可能性があります。
つまり、リターンが「所得」として課税対象になる可能性があるのは、主に2.のケースです。ただし、そのリターンの性質や、それが継続的に発生するかどうかなどによって、一時所得または雑所得のどちらかに区分されます。
所得になる場合:一時所得か、雑所得か?
リターンが所得と判断される場合、税務上は主に「一時所得」か「雑所得」のいずれかに区分されます。この区分によって、所得金額の計算方法や確定申告書の記入箇所が変わってきます。
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一時所得として扱われるケース:
- 性質:懸賞や福引に類するもの、役務提供の対価や資産の譲渡による対価ではないもの。偶発的に、単発で得られる所得という性質が強いです。
- 購入型クラウドファンディングのリターンでは、支援したことに対する謝礼として、予期せず受け取った経済的価値のある物品やサービスなどが一時所得に該当する可能性があります。
- 一時所得は、特定の経費を差し引いた後、さらに特別控除額(最高50万円)を差し引くことができます。そして、課税対象となるのはその所得金額の1/2です。
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雑所得として扱われるケース:
- 性質:他の9種類の所得(利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得)のいずれにも該当しない所得。副業による収入や、講演料、原稿料などがこれにあたります。
- 購入型クラウドファンディングのリターンで雑所得となるのは、例えば、支援者がプロジェクトに対して何らかの役務(スキル提供など)を行い、その対価としてリターンを受け取った場合や、反復継続的に類似のリターンを受け取っており、それが副業としての収入とみなされるような場合などが考えられます。
- 雑所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。
ご自身のリターンがどちらに該当するか判断に迷う場合は、プロジェクトの具体的な内容やリターンの性質をよくご確認ください。不明な場合は税務署に相談することをお勧めします。
ここからは、一時所得と雑所得、それぞれの確定申告書への具体的な記入方法を見ていきます。
一時所得として申告する場合の確定申告書の書き方
購入型クラウドファンディングのリターンが一時所得となる場合、以下の手順で確定申告書に記入します。ここでは、確定申告書Aではなく確定申告書B(一般用)を前提として解説します。
ステップ1:一時所得の金額を計算する
一時所得の金額は、以下の計算式で求めます。
(受け取ったリターンの経済的な価値の合計金額) - (そのリターンを得るために支出した金額) - (一時所得の特別控除額 50万円)
- 受け取ったリターンの経済的な価値: 受け取った物品やサービスの、その時点での時価や市場価格を参考に評価します。いくらで売られているものか、または同等のサービスを受けるにはいくらかかるかなどを調べます。不明確な場合は、税務署に相談が必要な場合があります。
- そのリターンを得るために支出した金額: その一時所得を得るために直接かかった費用です。購入型クラウドファンディング支援の場合、通常は支援した金額がこれにあたります。
- 一時所得の特別控除額: 一時所得には、最大50万円の特別控除があります。上記計算の結果が50万円以下であれば、一時所得の金額は0円となり、原則として課税されません(ただし、申告は必要となる場合があります)。
計算結果がプラスになった場合、その金額が一時所得の金額となります。
ステップ2:確定申告書 第一表に記入する
計算した一時所得の金額を、確定申告書 第一表の「所得金額」欄にある「一時」の箇所に記入します。 【画像イメージ】 (確定申告書 第一表 「所得金額」欄の「一時」の部分を指し示す矢印や枠線)
ステップ3:確定申告書 第二表に記入する
一時所得の具体的な内容を、確定申告書 第二表の「所得の内訳(所得の種類・名称・所得の生ずる場所・総収入金額・必要経費)」欄に記入します。
- 所得の種類・名称: 「一時所得」「クラウドファンディングリターン」などと記入します。
- 所得の生ずる場所: プロジェクト実行者の所在地や、リターンを受け取った場所などを記入します。
- 総収入金額: ステップ1で計算に使った「受け取ったリターンの経済的な価値の合計金額」を記入します。
- 必要経費: ステップ1で計算に使った「そのリターンを得るために支出した金額」を記入します。
【画像イメージ】 (確定申告書 第二表 「所得の内訳」欄の一時所得に関する部分を指し示す矢印や枠線)
ステップ4:課税対象となる一時所得の金額を計算し、記入する
一時所得は、上記で計算した金額の1/2が課税対象となります。この金額を、確定申告書 第一表の「所得金額」欄の下部にある「総合課税の合計額」「分離課税の所得がある場合は、別途計算」などの区分に応じて記入します。一時所得は原則として総合課税です。計算した金額を、他の総合課税の所得(給与所得など)と合算して「合計所得金額」欄に記入します。
【画像イメージ】 (確定申告書 第一表 「所得金額」欄の合計欄や、課税される所得金額の計算箇所を指し示す矢印や枠線)
雑所得として申告する場合の確定申告書の書き方
購入型クラウドファンディングのリターンが雑所得となる場合、以下の手順で確定申告書に記入します。
ステップ1:雑所得(その他)の金額を計算する
雑所得の金額は、以下の計算式で求めます。
(受け取ったリターンの経済的な価値の合計金額 または 現金で受け取った収入) - (その雑所得を得るためにかかった必要経費)
- 総収入金額: 受け取ったリターンの経済的な価値(時価など)の合計金額、または現金やこれに準ずる形で受け取った収入金額を合計します。
- 必要経費: その収入を得るために直接かかった費用です。例えば、プロジェクトに対して役務を提供した際の交通費や通信費、使用した材料費などが考えられます。購入型クラウドファンディングの支援金額そのものが、この雑所得を得るための必要経費となるかは、リターンの性質や支援と役務提供の関係性によります。
ステップ2:確定申告書 第一表に記入する
計算した雑所得(その他)の金額を、確定申告書 第一表の「所得金額」欄にある「雑(その他)」の箇所に記入します。 【画像イメージ】 (確定申告書 第一表 「所得金額」欄の「雑(その他)」の部分を指し示す矢印や枠線)
ステップ3:確定申告書 第二表に記入する
雑所得の具体的な内容を、確定申告書 第二表の「所得の内訳(所得の種類・名称・所得の生ずる場所・総収入金額・必要経費)」欄に記入します。
- 所得の種類・名称: 「雑所得」「クラウドファンディングリターン」「役務提供対価」などと記入します。
- 所得の生ずる場所: プロジェクト実行者の所在地や、収入を得た場所などを記入します。
- 総収入金額: ステップ1で計算に使った「総収入金額」を記入します。
- 必要経費: ステップ1で計算に使った「必要経費」を記入します。
【画像イメージ】 (確定申告書 第二表 「所得の内訳」欄の雑所得に関する部分を指し示す矢印や枠線)
ステップ4:他の所得と合算して合計所得金額を記入する
計算した雑所得(その他)の金額を、確定申告書 第一表の「所得金額」欄の下部にある「総合課税の合計額」に記入します。他の総合課税の所得(給与所得など)と合算して「合計所得金額」欄に記入します。
【画像イメージ】 (確定申告書 第一表 「所得金額」欄の合計欄や、課税される所得金額の計算箇所を指し示す矢印や枠線)
複数からリターンがある場合や、他の所得がある場合の注意点
会社員の方で、給与所得以外に購入型クラウドファンディングのリターンによる所得がある場合、確定申告が必要かどうかの判断基準となる「20万円」の計算には注意が必要です。
- 一時所得の場合:一時所得の金額(50万円の特別控除を差し引いた後の金額)の1/2が課税対象となりますが、この金額を他の所得と合算した上で、合計が20万円を超えるかどうかで申告要否を判断するわけではありません。あくまで「一時所得の金額」(特別控除を差し引いた後の金額)と、給与所得・退職所得以外の他の所得(雑所得、譲渡所得など)の合計額が20万円を超える場合に、確定申告が必要となります。
- 雑所得の場合:雑所得の金額そのものを、他の給与所得・退職所得以外の所得と合算し、その合計が20万円を超える場合に確定申告が必要となります。
このように、所得の種類によって判断基準が異なります。ご自身の状況に合わせて、慎重に判断してください。
また、複数のクラウドファンディングからリターンを受け取っている場合は、同じ所得区分(一時所得または雑所得)に該当するリターンをまとめて計算し、申告書に記入します。所得の内訳欄には、それぞれのプロジェクトに関する情報を記載するのが一般的です。
まとめ:確定申告書の提出に向けて
購入型クラウドファンディング支援でリターンを受け取った場合の確定申告書の記入方法について解説しました。リターンの性質によって、一時所得または雑所得に区分され、それぞれ申告書の記入箇所や計算方法が異なります。
ご自身のリターンがどの所得に該当するのか、正確な金額はいくらになるのかなどを確認し、このページを参考にしながら確定申告書の作成を進めてみてください。
確定申告書の作成は、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を利用すると、画面の案内に従って入力できるため便利です。
もし、ご自身のケースで判断に迷う場合や、具体的な計算方法が分からない場合は、管轄の税務署に相談されることをお勧めします。