クラウドファンディング支援でもらったリターン、税金計算に必要な「価値」の決め方と申告手順
クラウドファンディングで応援したプロジェクトから、魅力的なリターンを受け取った方もいらっしゃるかと思います。特に購入型クラウドファンディングの場合、受け取ったリターンによっては確定申告が必要になる可能性があります。
しかし、「リターンに税金がかかるの?」「もらったものの『価値』ってどうやって決めるの?」と疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。
この疑問を解消し、リターンの税金計算と申告をスムーズに進めるために、この記事では税務上のリターンの「価値」の考え方と、確定申告の基本的な手順について分かりやすく解説します。
購入型クラウドファンディングのリターンは税務上どう扱われる?
購入型クラウドファンディングで受け取るリターンは、税務上「一時所得」に該当することが一般的です。
一時所得とは、営利を目的とする継続的な行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得を指します。具体的には、懸賞金や賞金、生命保険の一時金などがこれにあたります。
クラウドファンディングのリターンは、支援という行為の結果として一時的に得られる経済的な利益とみなされ、一時所得として課税される可能性があるのです。
ただし、すべてのリターンに税金がかかるわけではありません。一時所得には、税金計算において非常に重要な特別控除額があるためです。
一時所得の計算方法と特別控除
一時所得の金額は、以下の計算式で求められます。
一時所得の金額 = 総収入金額 - 収入を得るために支出した金額 - 特別控除額(最高50万円)
この計算式における「総収入金額」が、まさに受け取ったリターンの「価値」を指します。そして、「収入を得るために支出した金額」は、原則としてそのリターンを得るために支払ったクラウドファンディングの「支援金額」に該当します。
重要なのは、一時所得には最高50万円の特別控除額がある点です。この特別控除額があるため、年間に得た一時所得の合計額がこの特別控除額内に収まる場合、所得税はかからず、確定申告も不要となるケースが多くなります。
リターンの「価値」はどうやって決める?
一時所得の計算で鍵となるのが、リターンの「価値」、つまり「総収入金額」をどのように見積もるかです。税務上の「価値」は、原則としてそのリターンを受け取った時点の時価で評価します。
1. 市場価格がある商品やサービスの場合
受け取ったリターンが、通常市場で販売されている商品やサービスである場合、その市場での販売価格を参考に「価値」を判断するのが一般的です。
- 例: 支援したプロジェクトから、市販されているバッグ(通常価格1万円)をリターンとして受け取った場合、リターンの「価値」は1万円と見積もることができます。
ただし、クラウドファンディング限定の特別仕様である場合や、一般販売価格が不明確な場合は、プロジェクトページに記載されたリターンの説明や、同等または類似品の市場価格などを参考に、合理的に価値を見積もる必要があります。
2. 市場価格がない、一点もの、体験型などのリターン
一点ものの作品、未発売の試作品、限定イベントへの参加権、特定の人物からのメッセージなど、市場で価格が形成されていないリターンの場合、価値の見積もりが難しくなります。
このようなケースでは、以下のような点を考慮して総合的に判断することになります。
- プロジェクトページでのリターンの説明: プロジェクト側がリターンに対して想定している価値や、支援額との対比などを参考にします。
- 同種または類似の取引における価格: もし過去に類似のリターンが提供されている、あるいは類似の体験に料金が設定されている場合は、それを参考にします。
- 専門家による評価: 美術品などであれば、専門家による鑑定評価も参考になりますが、一般的な確定申告においてはそこまで厳密な評価が求められることは稀です。
多くの場合、市場価格がないリターンの価値は、客観的な根拠に基づき、受け取る側が合理的に判断した金額となります。判断に迷う場合は、後述の税務署への相談も検討しましょう。
3. 支援金額とリターン価値の関係
一時所得の計算式にある「収入を得るために支出した金額」は、原則としてリターンを得るために支払った支援金額です。
- 例: 1万円を支援して、市場価格1万円のバッグをリターンとして受け取った場合
- 総収入金額(リターンの価値): 1万円
- 収入を得るために支出した金額: 1万円
- 一時所得の金額 = 1万円 - 1万円 - 特別控除額(最高50万円) = 0円
この例のように、リターンの価値が支援金額と同等かそれ以下である場合、一時所得は発生せず、確定申告は不要となるケースが多いです。
一時所得が発生し、確定申告が必要になるのは、受け取ったリターンの価値が、支払った支援金額に比べて明らかに高い場合や、複数のリターンを受け取った場合の合計価値が大きい場合などです。
一時所得の計算と申告要否の判断
1年間に得た全ての一時所得(クラウドファンディングのリターン以外にも、懸賞金や競馬・競輪の払戻金などがあれば合算します)について、リターンの「価値」の合計額を計算します。
その合計額から、それぞれのリターンを得るために支出した支援金額の合計額を差し引きます。
そして、その金額から一時所得の特別控除額最高50万円を差し引きます。
(1年間のリターンの価値の合計額) - (1年間の支援金額の合計額) - 50万円 = 課税される一時所得の金額
この「課税される一時所得の金額」がプラスになる場合に、他の所得と合算して税額が計算されます。
特に会社員の場合、給与所得以外の所得(一時所得や雑所得など)の合計が20万円を超える場合に確定申告が必要となります。クラウドファンディングのリターンによる一時所得の計算は、この「課税される一時所得の金額」の2分の1の金額で行われます(一時所得は他の所得と合算する際にその金額の2分の1で計算されるという特徴があります)。
つまり、クラウドファンディングのリターンを含む一時所得の金額の合計が、計算の結果プラスになり、その金額の2分の1と、その他の副業などの所得の合計が20万円を超える場合に、原則として確定申告が必要になる、と理解しておくと良いでしょう。
一時所得がある場合の確定申告手順
一時所得が発生し、確定申告が必要な場合は、以下のステップで手続きを進めます。
1. 必要書類の準備
- クラウドファンディングの利用明細: 支援金額やリターンの内容が確認できる書類(プラットフォームからのメール、マイページ上の履歴など)。
- リターンの内容が分かる資料: プロジェクトページの情報、リターンの説明、受け取ったリターンの写真など、価値を判断する根拠となるもの。
- 源泉徴収票: 会社員の場合。
- その他所得の証明書類: 他に一時所得や副業などの所得がある場合。
2. 確定申告書の作成
確定申告書は、国税庁のウェブサイトで提供されている確定申告書作成コーナーを利用するのが便利です。画面の案内に従って入力することで、税額が自動計算されます。
- 申告書の該当箇所:
- 確定申告書第一表の「収入金額等」欄にある「一時所得」の「収入金額」の欄に、1年間に受け取ったリターンの「価値」の合計額を入力します。
- 同じく「一時所得」の「必要経費等」の欄に、リターンを得るために支出した支援金額の合計額を入力します。
- 確定申告書第二表の「一時所得に関する事項」の欄に、受け取ったリターンの種類、支払者(クラウドファンディング事業者やプロジェクト実行者)、それぞれのリターンの「収入金額」(価値)、「必要経費等」(支援金額)などを具体的に記載します。
入力後、一時所得の金額が自動計算され、他の所得と合算された上で、課税される一時所得の金額の2分の1が総所得金額に算入されます。
3. 申告書の提出
作成した確定申告書は、e-Tax(電子申告)、郵送、または税務署の窓口に提出します。e-Taxを利用すると、自宅から手続きが完了し、添付書類の提出も省略できる場合が多いです。
リターンの価値評価に迷ったら
市場価格がないリターンなど、価値の評価に迷う場合は、一人で抱え込まずに税務署に相談することをおすすめします。税務署の窓口や電話相談、チャットボットなどを活用して、具体的な状況を説明し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。
まとめ
購入型クラウドファンディングで受け取ったリターンは、一時所得として課税される可能性があります。税金計算のためには、リターンの「価値」を適切に見積もり、支援金額を必要経費として差し引き、特別控除額50万円を適用して一時所得の金額を計算します。
計算の結果、他の所得との合計で確定申告が必要となる場合は、本記事で解説した手順を参考に、適切に申告を行いましょう。リターンの価値評価に不安がある場合は、ためらわずに税務署などの専門機関に相談してください。正確な理解と適切な手続きで、クラウドファンディング支援と確定申告に安心して向き合いましょう。