年末調整しか経験がない会社員がクラウドファンディング支援を申告する場合の手順と注意点
はじめに
会社にお勤めの多くの方は、毎月の給与から所得税などが天引きされ、年末調整で税額が確定するため、ご自身で確定申告を行う機会は少ないかもしれません。しかし、近年注目されているクラウドファンディングでプロジェクトを支援したことをきっかけに、「もしかして確定申告が必要?」と不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
特に、これまでに年末調整しか経験がなく、確定申告の手続きに馴染みがない方にとっては、税務署のウェブサイトを見ても用語が難しく感じられたり、自分に何が必要なのか分からず、ハードルが高く感じられるかもしれません。
このページでは、クラウドファンディング支援をした年末調整のみの会社員の方が、確定申告が必要になるケースや、初めての確定申告をスムーズに進めるための基本的なステップ、そして知っておくべき注意点について、分かりやすく解説します。
会社員でも確定申告が必要になるケースとは?
会社員の方の税金は、原則として年末調整で計算され、納税が完了します。しかし、特定の条件に当てはまる場合は、ご自身で確定申告を行う必要があります。
クラウドファンディング支援に関連して確定申告が必要になる可能性があるケースとしては、主に以下の二つが挙げられます。
- 給与所得以外の所得が年間20万円を超える場合
- クラウドファンディング支援によって受け取ったリターンが「一時所得」など、給与所得以外の所得に該当し、その所得金額が年間20万円を超えた場合です。
- 一時所得には年間50万円の特別控除があるため、クラウドファンディング支援を含む一時所得の合計金額が50万円以下であれば、通常は所得税はかからず、この理由での確定申告は不要です。しかし、一時所得以外にも給与所得以外の所得がある場合は合算して判断します。
- 寄付金控除を受ける場合
- 特定の要件を満たすクラウドファンディングへの支援が「寄付金控除」の対象となることがあります。
- 寄付金控除は、年末調整では手続きができません。この控除の適用を受けるためには、金額にかかわらずご自身で確定申告を行う必要があります。
ご自身のクラウドファンディング支援がどちらに該当する可能性があるのか、また確定申告が必要かどうかの具体的な判断については、この後詳しく見ていきます。
クラウドファンディング支援の税務上の扱いを確認する
クラウドファンディングには様々なタイプがあり、支援の方法や受け取るリターンによって税務上の扱いが異なります。ここでは、会社員の方の確定申告に特に関連しやすい「寄付型」と「購入型」を中心に解説します。
- 寄付型クラウドファンディング
- プロジェクトへの「寄付」という形式で資金を提供するタイプです。見返りとしてモノやサービスを受け取らないか、受け取ったとしても記念品のような性質が強い場合に該当します。
- 支援先が国や地方公共団体、特定の公益法人などで、かつ所定の要件を満たすプロジェクトへの寄付は、「寄付金控除」の対象となる可能性があります。
- 寄付金控除を受けるには、確定申告が必要です。
- 購入型クラウドファンディング
- プロジェクトが提供するリターン(モノやサービスなど)を「購入」する対価として資金を支払うタイプです。
- 通常、受け取るリターンは購入した商品やサービスと見なされるため、原則として税務上の「所得」には該当しません。
- ただし、リターンが「支援額と比較して著しく価値の高いもの」である場合など、経済的な利益と見なされる部分が「一時所得」に該当する可能性もゼロではありません。一時所得となる場合の計算方法は複雑なため、詳細は別の記事で解説しています。多くの場合は、受け取るリターンは購入の対価であり所得にはなりません。
年末調整しか経験がない会社員の方が、クラウドファンディング支援をきっかけに確定申告を検討する場合の多くは、寄付型クラウドファンディングへの支援で「寄付金控除」を受けたいケースです。
年末調整だけだったあなたが確定申告をするための基本的なステップ
クラウドファンディング支援を理由に確定申告が必要になった、あるいは寄付金控除を受けるために確定申告をしようと決めた会社員の方が、具体的に何をすれば良いのか、基本的なステップをご紹介します。
ステップ1:確定申告が必要か、またはすることでメリットがあるか判断する
まずは、ご自身の状況で確定申告が本当に必要か、または寄付金控除を受けることで税金が還付されるメリットがあるかを確認します。
- 所得の有無を確認する: クラウドファンディング支援によるリターンが一時所得等に該当する場合、年間50万円の特別控除を超えているかを確認します。他の給与所得以外の所得(副業収入など)があれば、それらも含めて合計所得金額が20万円を超えるかを確認してください。
- 寄付金控除の対象か確認する: 支援したクラウドファンディングが、国税庁が定める寄付金控除の対象となるかを確認します。プロジェクトページやクラウドファンディング事業者の案内、または支援先団体に確認が必要です。対象となる場合、寄付金額(自己負担額2,000円を除く金額)の一部が所得税から控除され、税金が還付される可能性があります。控除額が少ない場合は、確定申告の手間と比較してメリットが小さいこともあります。
ステップ2:必要な書類を準備する
確定申告には、様々な書類が必要です。クラウドファンディング支援に関連する書類に加え、会社員としての所得を証明する書類も準備します。
- 会社から発行される源泉徴収票: 確定申告書に、給与所得に関する情報を記載するために必要です。通常、年末調整が終わった後、1月頃に会社から受け取ります。
- クラウドファンディング事業者または支援先からの書類:
- 寄付型で寄付金控除を受ける場合:「寄付金受領証明書」が必要です。これは、支援した団体やクラウドファンディング事業者から発行されます。
- 購入型でリターンが一時所得に該当する場合:リターンの金額や、それを得るために直接かかった費用などを証明する書類が必要になることがあります。
- マイナンバー関連書類: マイナンバーカード、またはマイナンバー通知カードと運転免許証などの本人確認書類が必要です。
- その他: 税金の還付がある場合に必要となる本人名義の預貯金口座の情報、各種控除(生命保険料控除、地震保険料控除など)に関する証明書(もしあれば)など。
ステップ3:確定申告書を作成する
必要書類が揃ったら、確定申告書を作成します。年末調整しか経験がない方には、e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用した申告書の作成がおすすめです。国税庁のウェブサイトにある「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の案内に従って金額等を入力するだけで、税額が自動計算され、申告書を作成できます。
確定申告書への主な記載箇所は以下の通りです(e-Taxの作成コーナーでの入力項目に相当します)。
- 給与所得の入力: 源泉徴収票を見ながら、収入金額や源泉徴収税額などを入力します。
- クラウドファンディング関連の入力:
- 寄付金控除を受ける場合:「寄付金控除」の項目で、寄付金受領証明書に記載された情報(寄付先の名称、所在地、寄付金額など)を入力します。
- 一時所得がある場合:「一時所得」の項目で、収入金額、収入を得るために支出した金額、特別控除額などを入力します。計算方法が不明な場合は、作成コーナーの案内に沿って入力すれば計算できます。
- その他の所得や控除の入力: もしあれば、生命保険料控除など他の控除についても入力します。
- 税額の計算: 入力した内容に基づき、税額が自動計算されます。年末調整で納めすぎた税金があれば還付されますし、不足があれば納付が必要です。
ステップ4:確定申告書を提出する
作成した確定申告書は、税務署に提出します。提出方法には主に以下の方法があります。
- e-Tax: インターネットを通じて申告データを送信する方法です。マイナンバーカード方式か、ID・パスワード方式で利用できます。税務署に行かずに自宅から申告できるため便利です。
- 郵送: 作成した申告書を印刷し、必要書類のコピーなどを添付して税務署に郵送する方法です。
- 税務署の窓口: 税務署に申告書を持参して提出する方法です。申告期間中は窓口が大変混雑することがあります。
初めての確定申告であれば、e-Taxの確定申告書等作成コーナーを利用するのが最も分かりやすく、入力ミスも減らせるためおすすめです。
ステップ5:税金を納付または還付を受ける
計算の結果、追加で税金を納める必要がある場合は、定められた納付期限までに納付します。反対に、税金が還付される場合は、指定した預貯金口座に振り込まれます。
確定申告をする際の注意点
- 申告期間を確認する: 所得税の確定申告期間は、原則として毎年2月16日から3月15日までです。この期間内に申告と納税を完了させる必要があります。還付申告の場合は、この期間前でも申告できます。
- クラウドファンディング関連書類を保管する: 寄付金受領証明書など、確定申告の根拠となる書類は大切に保管しておきましょう。税務署から問い合わせがあった際に提示を求められることがあります。
- 分からないことは相談する: 確定申告の手続きで不明な点があれば、一人で悩まずに税務署の相談窓口に問い合わせるか、税理士に相談することを検討してください。ただし、税務署の相談窓口は、個別の税務相談ではなく一般的な情報提供が中心です。
- 期限内の申告を心がける: 申告期間を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課される場合があります。早めに準備を進めましょう。
まとめ
クラウドファンディング支援をきっかけに、初めて確定申告に挑戦する会社員の方にとって、その手続きは難しく感じられるかもしれません。しかし、ご自身の支援が税務上どのように扱われるかを確認し、必要な書類を揃え、e-Taxの確定申告書等作成コーナーなどを活用すれば、手順に沿って申告を行うことは十分に可能です。
このページが、年末調整しか経験がなかったあなたの確定申告への第一歩を後押しする一助となれば幸いです。